プレッシャーがかかればかかるほど自分は力を発揮できる 長友佑都(サッカー)
弱さと向き合ったからこそ、今がある。ふつふつと燃えてきた 重本沙絵(パラ陸上)
自分に自信が持てない、落ち込みやすい、他者からの評価が気になる……。
こんな風にメンタルの弱さに悩んでいませんか?
冒頭は、強靭なメンタルを表すアスリートの言葉です。
メンタルの強さはポジティブ、本番に強い、気持ちの切り替えが早い、など様々な要素が思い浮かびますが、厳しい競争の世界で生きるアスリートは、一つの理想像となるのではないでしょうか。
彼らの心の持ちようを知ることは、メンタルを強くする方法を考える上で、よい手助けになりそうです。
そこで今回は、スポーツを心理学的に分析する「スポーツ心理学」をもとに、メンタルを強くする方法をお伝えします。
スポーツ心理学はこどもから大人まで、自分に欠けているところを伸ばすトレーニングをすれば、誰もがメンタルを強くできることを教えてくれます。
今回は今日からすぐに取り組めるよう、日常でできるトレーニング方法も解説しました。挫折しそうになったときに背中を押してくれる本もご紹介するので、モチベーション維持に役立ててもらえたら嬉しいです。
アスリートから勝者のメンタルを学びましょう!
参考:「NHKスポーツニュース アスリート×ことば」https://www3.nhk.or.jp/news/special/athlete-words/
CONTENTS
メンタルは自力で強くできる!
そもそもメンタルって自分で鍛えられるの?と疑問を抱いている人も多いのではないでしょうか。
メンタルの強さは生まれ持ったものだ、と考える人もいますが、スポーツ心理学では自分で鍛えられると考えられています。
スポーツ心理学はメンタルをどうとらえているか、またメンタルを強くするには何から始めたらいいのかを解説していきます。
メンタルは「技術」だから鍛えられる
スポーツで良い結果を出すには、技術や体力だけでなく精神力が求められるのは、皆が知ることですよね。
近年ではこの精神力を「心理的スキル(技術)」と表現され、「技術」なのだから「練習(学習)」すれば上達する、とされています。(徳永幹雄(編)『教養としてのスポーツ心理学』大修館書房 2005 p.10)
つまり、私たちも練習(学習)すればメンタルを強くすることができる、ということ。アスリートのような強いメンタルを身につけるのは、不可能ではないのです。
メンタルを強くする第一歩は「自分を知る」こと
自分のことを知らなければ、メンタルのトレーニングはできません。まず最初にすべきことは、自分の長所・短所を明らかにし、伸ばすべきところ、直したいところの確認です。
スポーツ心理学の入門書である『教養としてのスポーツ心理学』では、心理的スキルの具体的な内容として、以下の12要素をあげています。
- 競技意欲……①忍耐力、②闘争心、③自己実現意欲、④勝利意欲
- 精神の安定・集中……⑤自己コントロール、⑥リラックス能力、⑦集中力
- 自信……⑧自信、⑨決断力
- 作戦能力……⑩予測力、⑪判断力
- 協調性……⑫協調性
(徳永幹雄(編)『教養としてのスポーツ心理学』大修館書房 2005 p.11 表2-3スポーツ選手の心理的競技能力)
上記の心理的スキルで欠けているものを確認し、その克服方法を考えたトレーニングに取り組むことで、メンタルを鍛えることが可能になるようです。
自分のことがよくわからない場合は、以下の診断検査が参考にしてみてください。
スポーツ選手向けの表現ではありますが、自己理解の良いツールになります。(対象:中学校から成人まで)
徳永・金崎・多々納・橋本・高柳(1991)「スポーツ選手の心理的競技能力診断検査の開発」、『デサントスポーツ科学』第12巻、pp.178-190
https://www.shinshu-u.ac.jp/faculty/textiles/db/seeds/descente12_16_tokunaga.pdf
欠けている心理的スキルが明確になったら、次はその克服方法を考えトレーニングに取り組みます。
メンタルが弱い人が共通して欠けているのは、「リラックス能力(緊張しやすい)」 「集中力(動揺しやすい)」 「自信(自信が持てない)」の3つではないでしょうか。
メンタル激弱の私は、上記の診断結果でリラックス能力と自信が大きく欠けていました。
次章からはこの3つの心理的スキルトレーニングについて解説していきます。
メンタルを強くする方法①リラックス能力を高めよう
・あがり症
・本番に弱い
・結果が気になり、落ち着かない
人前でうまく話せない、面接やプレゼンに弱いなど、メンタルが弱い人には「あがり症」が多いのではないでしょうか。不安やプレッシャーに負けないためには、リラックス能力が鍵となります。
トレーニング方法として有効なのが、呼吸法。具体的なやり方を動画つきでご紹介します。
「よい緊張感」にコントロールする能力を身につける
メンタルが弱い人は、不安や緊張により普段の実力が発揮できなくなることが少なくありません。
多くの人は「緊張しないようになりたい!」と願いますが、緊張はしても良いもの。緊張の度合いをコントロールできることが重要になります。
試合前にナーバスになっているアスリートを見たことはありませんか?
メンタルが強いアスリートでも緊張はするもの。ただし彼らは本番までに弱い気持ちと向き合い、勝負に適した気持ち(緊張感)に切り替えているのです。
その場により、最適な緊張感は変わります。「よし、やるぞ!」と興奮したほうが良い結果が引き出せるときもあれば、気持ちを落ち着かせたほうが良いときもあります。
サッカー選手は試合前は円陣を組んで士気を高めますが、緻密な技術が求められるPK前はその逆で興奮度を下げて挑みますよね。
「緊張感を自分でコントロールできる」ことがポイントなのです。
「呼吸法」でリラックス能力を鍛える
緊張感のコントロールに役立つのが呼吸法です。
呼吸法はすぐに取り組むことができ、試験や面接会場など場所を問わず実行できるのが長所。あらゆるときに役立つので、真っ先に取り組みたいトレーニングです。
焦りや緊張を感じるときに適しているのが、【複式呼吸】。副交感神経を優位になり、心身をリラックスさせてくれます。
腹式呼吸は息を吸ったときにお腹が膨らむ呼吸法で、お腹がふくらむように鼻から息を吸い込み、お腹がへこむようにゆっくりと口から吐き出します。
腹式呼吸の方法【動画】
https://youtu.be/r–M58kFljI
(出典:ヨガジャーナルオンライン「腹式呼吸のやり方_ヨガジャーナル日本版」)
エンジンがかからないときや、その場に萎縮してしまったときは、口で息を吸って胸が膨らむ【胸式呼吸】を行いましょう。交感神経が優位になり、心身を適度な興奮状態に引き上げてくれます。
胸式呼吸の方法【動画】
https://youtu.be/0MEtlnVYZDU
(出典:ヨガジャーナルオンライン「胸式呼吸のやり方_ヨガジャーナル 日本版」)
参考:ハイパフォーマンススポーツセンター https://www.jpnsport.go.jp/hpsc/
メンタルを強くする方法②集中力を高めよう
・気が散って集中できない
・ささいなことに動揺する
・冷静さを失う
集中力とは何でしょうか?徳永氏は集中力について「自分の注意をある課題や対象物(一点)に集め、それを持続する能力」(徳永幹雄(編)『教養としてのスポーツ心理学』大修館書房 2005 p.36)としています。
勉強や仕事など、やるべきことに注意を集めるだけでなく、その状態を途切れさせないことが集中力と言えるようですね。
集中力を高める練習には以下の3つがあります。
- 課題に注意を集める練習
- 外的・内的要因に注意を乱されない練習
- 注意を持続する練習
(徳永幹雄(編)『教養としてのスポーツ心理学』大修館書房 2005 p.36)
それぞれの練習方法を見ていきましょう。
①課題に注意を集める練習
注意を集める練習としては、暗算やグリッド・エクササイズ(言われた数字を探し、制限時間中に何個探せるかを競うもの)がトレーニングになるそうです。
市販のドリルを使ってもよいけれど、現代人におすすめしたいのが、スマートフォン用の暗算や数字探しのアプリ。スマホアプリなら1人でちょっとした空き時間に取り組めます。
スマホアプリの例
【暗算】
・脳トレHAMARU 計算ゲームで脳トレ勉強アプリ:MITSUYUKI SUZUKI (iOS・android)
・ひよこ暗算:Hiza Games (iOS・android)
・脳トレ!暗算(数学・計算):Hiza Games (android)
【数字探し】
・123 早押し ゲーム:TAKAHIRO AYA (iOS・android)
・THE WORLD – 反射神経ゲーム:James Watson (iOS)
・数字をタッチ -Pro- 脳トレにもなる数字ゲーム:Mitchy (android)
参考:ソフトテニスマガジン・ポータブル https://www.softtennis-mag.com/20170821-13600/
②集中力を乱されない練習
アスリートが試合中によく「集中!」「落ち着こう」と自分に声かけをしていますよね。これは不安や恐れから集中が乱れないよう、気付きのきっかけとなる短い言葉を自分に投げかけ、集中力を高めているから。
私たちも集中力が乱れそうなときは「上を向いて」「ゆっくりいこう」などの短い言葉を繰り返し自分に語りかけ、マイナスな感情を追い出しましょう。
自分の心理状態だけでなく、天候や騒音などの環境も集中力を乱す要因となることもあります。
悪環境にメンタルを乱されない練習としては、最悪のシナリオでの練習が良いそうです。(徳永幹雄(編)『教養としてのスポーツ心理学』大修館書房 2005 p.38)
環境により気持ちが乱れやすい人は、最悪の状態に慣れておくこと。最悪を知っておけば、動揺せずに本番で冷静に対応できますよね。
騒音の中で問題を解く練習をするなど、どんな環境でも実力が発揮できるように準備しておきましょう。
③注意を持続する練習
集中力を持続する方法としてすぐに取り組めるのが、楽しいことに注意を向ける訓練です。徳永氏は「苦痛の閾値(限界)を高める」(徳永幹雄(編)『教養としてのスポーツ心理学』大修館書房 2005 p.39)と表現していました。
例えば、資格の勉強が辛いときは、合格したときの自分を想像したり、好きな音楽を口ずさんでみたり。
注意を苦しいことから楽しいことにそらすことで、苦痛の限界を高めることができるそうです。
確かに、集中力が途切れるそうになると嫌だな、やめたいな、とネガティブな気持ちを抱きますよね。
そこで楽しい方向に気持ちを持っていけば、集中できる時間を少しずつ伸ばしていける、というものです。
個人的に今回ご紹介した中で即効性が高かったのが、この方法。
「疲れたな→スマホを見てサボる」から「疲れたな→ポップな歌を口ずさんで気を紛らわす」「疲れたな→成功したときを想像してニヤける」のように思考を変えると、5分、10分と少しずつですが集中力の持続時間が延ばせました。
集中力が持続できたときは自分を褒めてあげると、効果は倍増です。
メンタルを強くする方法③自信を高めよう
・自分の力が信じられない
・他人と比較してしまう
・チャレンジする勇気が持てない
自信がある・ない、とよく口にしますが、自信とは何かを説明できますか?
徳永氏はスポーツ選手に必要な自信を「自分の能力(技術、体力、心理)を十分に発揮できる確認度」と「自分の目標を競技で達成できる確信度」(徳永幹雄(編)『教養としてのスポーツ心理学』大修館書房 2005 p.42)としています。
これまで練習をこれだけやったから自分はできる!成功する能力を自分は身につけた!という「予測」と「確信」が自信と言えるようです。
アスリートではない私たちが根拠のある自信をどうやってつけるか、探ってみたいと思います。
成功実績がない場合は、習い事をスタート
自信は「これまで積み上げてきたもの」がないと生み出すことができません。ときには根拠のない自信も必要ですが、裏づけがない自信はちょっとしたことで揺らぎやすいものです。
「自分には成功した実績がない……」という人におすすすめしたいのが、習い事に取り組むこと。
習い事は自分のレベルに合った課題が出されるため、自身の能力が確認できるし、指導者からの評価は客観的な能力の確認に役立ちます。
継続すれば次第に「自分はここまでできる」と予測ができるようになり、根拠のある自信が身につくように。興味がある習い事を選べば、楽しみながら自信がつけられます。
勝負で着実に自信を身につけられる
コンクールや試合、対局など、自分のレベルに合った勝負の機会が得られるのも習い事のメリットです。
自信がない人に効果的なのが、実力よりも少し下のレベルで勝つ経験を多く積むこと。
5回の勝負のうち、3回勝ち、1回負けて、1回引き分けになる……といった経験ができるのがベスト。勝つ成功体験を得ながら課題も見つけられ、自信と闘争心が養えます。
着実に自信を身につけたいなら、個人の力で勝負ができる習い事を検討してみてください。
勝負の機会がある習い事の例……テニス、水泳、武道、囲碁、将棋、書道、絵画 など
メンタルを強くしたい人におすすめな本3選
メンタルトレーニングは、継続をすることが大切です。最後に、トレーニングに挫けそうになったときに役立つ本をご紹介します。
強くなりたい!という気持ちを後押ししてくれるはずです。
荒木香織 ラグビー日本代表を変えた「心の鍛え方」(講談社+α新書) 2016年 講談社
前ラグビー日本代表メンタルコーチによる著書。2015年ラグビーW杯で優勝候補の南アフリカに勝利した「奇跡」には、メンタルトレーニングが深く関わっていました。
一躍有名になった五郎丸歩さんのルーティーン誕生の話、メンタルスキルの鍛え方などがスポーツ心理学の観点から語られています。
メンタルトレーニングの大成功の実例は、大きな勇気を与えてくれます。
松岡修造 「プレッシャー」が「よっしゃー」に変わる! 修造流・逆転の発想法 (YA心の友だち) 2021年 PHP研究所
自分を変えたいと思っている中学生・高校生には、こちらの本がおすすめ。
元プロテニス選手でスポーツキャスターの松岡修造さんが、中高校生に向けて書いたもので、思考方法や具体的な行動などがわかりやすく書かれています。
ポジティブなイメージがありますが、「自分はメンタルが弱かった」と言う松岡さん。弱さをどう強さに変えるか、熱血指導してくれます。
366日 アスリートの名言 (366日の教養シリーズ) 2021年 三才ブックス
アスリートの名言を集めた本。力強い言葉の数々は、折れそうになった心を奮い立たせてくれます。
1日1名言をサラッと読めるので、毎日忙しい人に。
寝る前に読んで、また明日もがんばりましょう。
さいごに
思考に気をつけなさい、それはいつか言葉になるから。
言葉に気をつけなさい、それはいつか行動になるから。
行動に気をつけなさい、それはいつか習慣になるから。
習慣に気をつけなさい、それはいつか性格になるから。
性格に気をつけなさい、それはいつか運命になるから。
これはマザー・テレサの名言と言われています。(老子説、ガンジー説など諸説ありますが)
正確や行動の源となる思考を変えるのは容易ではありません。
でも、科学的な裏づけがあるスポーツ心理学の考えをベースにトレーニングすれば、その実現は不可能ではないように感じます。
記事では今すぐ始められるトレーニング方法をご紹介しましたが、すぐにはメンタルは強くなりません。でも、1週間続けると少しずつ変化が生まれ、さらに継続すれば着実にメンタルが強くなっていくはずです。
メンタルを強く鍛えたアスリートをお手本に、今日から弱いメンタルから卒業しませんか。
参考文献:
徳永幹雄(編)『教養としてのスポーツ心理学』 大修館書店 2005
楠本恭久(編著)『はじめて学ぶスポーツ心理学12講』 福村出版 2015