いつのまにか物事をネガティブに考えていたり、小さなことですぐ落ち込む自分に悩んでいる人は多いのではないでしょうか。マイナス思考が定着してしまうと「もっとポジティブに考えることができればいいのに」と自己嫌悪に陥ってしまい、毎日が辛いものになってしまいます。
現代社会はインターネットやSNSの影響で、ネガティブ思考やうつなどの精神疾患を抱える人が増加しているといわれています。日本心理学会は、悲しみや怒りなどのネガティブ感情が、心にダメージを与えるだけでなく、血圧を高めたり,心拍数を増加させるなど,体に悪影響をもたらし、心身症状などの疾病にいたることがあると示しています。
このようなネガティブな感情に対処するために、「ポジティブシンキング」という考え方があります。ポジティブシンキングは、物事をポジティブに考える習慣を身につけることで、人生をより良い方向へ導くことができる思考法で、多くの自己啓発書やビジネス書でも取り入れられています。
ここでは、ポジティブシンキングとは何か、その重要性と、メリット・デメリット、そして実践方法について具体的に解説していきます。「いつもネガティブに考えてしまうのをどうにかしたい」、「もっと前向きになりたい」という人には特に、このポジティブシンキングについて理解し実践することをおすすめします。
CONTENTS
ポジティブシンキングとは?
ポジティブシンキングは、“前向きな考え方によって、今の状態をより良い方向へ導く考え方”です。「プラス思考」や「楽観的」といった言葉でも表現できます。具体的には、物事の良い面に着目し、ポジティブな姿勢でいることによって「考え方そのもの」を変えること、それによって現実を変えることを目指す考え方です。
つまり、ポジティブな思考はポジティブな現実をもたらすということで、逆を言うとネガティブな思考はネガティブな現実をもたらすといった解釈ができます。
心や考え方が現実になり、健康や経済面に影響するという考え方は、アメリカでは「動機づけの心理学」とも呼ばれ、自己啓発本やビジネス本などでも数多く取り入れられています。強く願えば実現するという「引き寄せの法則」も、ポジティブシンキングの考え方が影響しています
なぜポジティブシンキングが重要なのか
ポジティブシンキングは心身に良い影響を及ぼすため、重要であるといえます。
心理学の歴史をたどると、感情についての研究では今まで、圧倒的にネガティブ感情が対象とされてきました。これに対してポジティブな感情はあまり研究されてこず、その存在意義があまり明確ではありませんでした。しかし、近年、心理学者のマーティン・セリグマン によって提唱された「ポジティブ心理学」を中心にポジティブな感情の重要性が指摘されはじめ、数々の研究が報告されています。
結果として、ポジティブな感情を経験することによって、思考や行動の選択肢が広がり、創造的な思考活動や学習機会を増加させるという可能性が指摘されだしました。また、ネガティブ感情によって嫌な気分や心拍率,血圧などが高まったときに、素早く元に戻す作用※があることも研究で示されています。
つまり、人々が逆境やストレスに直面したとき,ポジティブに解釈することによって思考や行動の幅が広がり、それらがプラスの連鎖を作ることによって健康の増進をもたらす※のです。
ポジティブシンキングを実践する方法
ポジティブシンキングが身についている人は失敗を恐れず、人間関係も良く、モチベーションが維持しやすい特徴があることが分かりました。ここからは、ポジティブな思考を身につける方法をご紹介します。
ポジティブシンキングを実践する方法
- 具体的かつ達成可能な目標を立てる
- 物事を前向きにとらえるよう意識する
- マイナス思考を再解釈する「リフレーミング」
- 過去より、現在・未来へ意識を向ける
- 自分の周りの人々への感謝を忘れない
- ポジティブな人と過ごす時間を増やす
- ネガティブな発言に気をつける
- 適度な運動を習慣にする
- ポジティブな気持ちになった時を思い出してみる
- 規則正しい生活を心掛ける
- 自分を大切にする
1. 具体的かつ達成可能な目標を立てる
ポジティブシンキングを身につける上でとても重要なのが、細かい目標設定することです。目標を細分化することにより、小さなゴール達成を何度も達成する感覚を味わうことができるため、自分に自信がもてるようになりポジティブな感情を高めます。また、一つ一つのゴールがほどよく近いため、挫折が少なく、達成可能であると感じることで自己効力感を高めることにつながります。
目標を設定する際は、徐々に期間を伸ばしていくようにしましょう。例えば、3日間継続できたら、次は3週間、3ヶ月、半年、1年と自分のペースを見ながらがおすすめです。しばらく継続することができたら、目標達成後の自分が脳内に刷り込まれていき、習慣として定着していきます。ですので、ルーティーン化できるところまで続けてみることが大切です。
無理な目標を設定し挫折を繰り返してしまうと、「やっぱり自分はだめだ」とネガティブ思考に陥りやすくなってしまうため、あえて挫折しにくい期間を設定することはプラス思考を育てる上非常に重要なポイントです。
また、ポジティブシンキングを身につけるためのもう一つの方法として、達成可能な目標立てを行う方法があります。
具体的で、かつ達成可能な目標を立てる上で使用される、「SMARTの法則」という思考のフレームワークが存在します。「SMARTの法則」は、以下の5つの基準に沿って目標設定を行うやり方です。
- Specific:具体的かつ分かりやすい
- Measurable:計測が可能である
- Achievable:達成可能である
- Relevant:関連性がある
- Time-bound:期限が明確である
SMARTの法則を用いることによって、非現実的な目標を立てることを避け、より目標を達成可能なものにすることができます。
また、具体的かつ達成可能な目標を設定したら、目標を達成する習慣を身につけるようにしましょう。達成可能な目標を設定し、達成を繰り返すことを習慣化することで、自分に対するポジティブな感情が一気に高まるはずです。
2. 物事を前向きにとらえるよう意識する
ポジティブな出来事よりもネガティブな出来事をより強く記憶する人間の脳のしくみもあるため、私たちはついマイナスな部分に焦点をあててしまいがちかもしれません。ですので、脳にマイナスの記憶を定着させないようにするには、ポジティブな気持ちになる頻度を高めることが大切になってきます。
ポジティブ感情を増やすための一つの方法として、ネガティブな感情を「解釈しなおす」という方法があります。つまり、嫌だなとネガティブな感情を持ってしまっても、それを別の意味にとらえるということです。
3. マイナス思考を再解釈する「リフレーミング」
どうしてもマイナス思考が定着してしまい、どうにもできないと感じた場合は「リフレーミング」という思考を用いると良いかもしれません。リフレーミングとは、もともとは、コミュニケーション心理学で用いられている手法で、“物事を違う視点でとらえ、別の意味をもたせる”ことです。リフレーミングは、物事を前向きにとらえられるように意識するための練習のようなもので、ポジティブシンキングの習得にとても役立ちます。
具体的なやり方としては、何かネガティブなことがあった場合に、そのまま紙に思ったことを書いて、それをそのままポジティブ変換します。例えば、「今日はまったく何もやる気がおきなくて、一日中テレビをみていた。罪悪感を感じる」という気持ちになった時、それを「今日は一日リラックスできた。また明日から頑張ろう」といったように、ネガティブな感情をポジティブに置き換えた形で、横に記入するのです。
このリフレーミングの思考法は、悲観的な感情にとらわれているときに、自分の思考を再解釈する手助けをするので解決策を見出しやすくなるので非常に効果的です。
マイナスな思考が定着してしまっている人にとっては、最初は実践することが難しいかもしれませんが、物事を前向きにとらえられる習慣が一度身につけば、物事が好転する可能性を高めることができるはずです。
4. 過去より、現在・未来へ意識を向ける
ネガティブ思考に陥ると、過去の失敗やつらい体験を思い出し、気持ちがさらに落ち込んでしまうことがよくあります。「過去は過ぎ去ったことであって今ではない」と気持ちを切り替え、負のスパイラルに陥らないようにしましょう。
また、日々の生活に目標や楽しみがあると、前向きな気持ちと向き合う時間が増えてきます。頑張ろうという意欲が湧き、ポジティブシンキングにつながるのです。まずは、楽しみにしていることをスケジュールに組み込んでみましょう。友達とのランチや週末のお散歩など身近なものから、「3年後にヨーロッパ旅行する」などかなり先の予定まで幅広く考えるのがおすすめです。ワクワクする予定があるだけで、日々の幸福度や充足感は大きく上がります。何か嫌なことがあっても、これらの楽しみを考えることで「まあいいか」という気持ちになるはずです。
5. 自分の周りの人々への感謝を忘れない
「感謝すること」は自分自身のポジティブな感情を高める効果があります。周囲にいる人々へ感謝の気持ちを具体的な言葉で伝えることによって、その人たちが「自分には価値がある」と感じることができ、幸せな気持ちにすることができます。この“自分は周りの人たちを幸せな感情にしているという感覚”が、ポジティブな感情を生み出すのです。
また、感謝することはビジネスにおいても大切です。ペンシルバニア大学ウォートンスクール教授で心理学者のアダム・グラントによると、職場の同僚に感謝の思いを伝えたとき、同僚は自分の価値を認められたと感じ、進んで助けてくれるようになるといったデータもあります。
ポジティブシンキングを身につけるためにも、感謝の気持ちを忘れず、積極的に周りの人に伝えるように心がけましょう。
6. ポジティブな人と過ごす時間を増やす
ポジティブな人の近くにいると、なぜか自分もポジティブシンキングになれるように感じたことはありませんか?それは、「ミラーニューロン」が大きく関係しているのです。ミラーニューロンは、「見たものに共感、模倣し、頭の中で再現したり、同様の行動を取ったりする」脳の働きのことをいいます。つまり、ポジティブな人のそばにいることで、自分の行動も無意識に、ポジティブに変わっていくのです。誰かとずっと一緒にいることは難しいかもしれませんが、少しでも一緒にいる時間を増やしてみましょう。
7. ネガティブな発言に気をつける
自分がネガティブな発言を繰り返していると感じたら注意しましょう。なぜなら、ネガティブな発言を繰り返すことによって、否定的なマインドが定着してしまう可能性があります。
ネガティブな口癖が多い場合は、つねに悲観的な目線で物事を見ています。つまりプラス思考とは逆の行動をとっているのです。そのような思考と行動を繰り返してしまうと、習慣化され、ポジティブに考えることが難しくなってしまいます。ですので、できるだけネガティブな口癖は避けるよう意識しましょう。
8. 適度な運動を習慣にする
適度な運動習慣は、ストレスを減らし精神的な余裕が生まれるため、結果的にポジティブに物事をとらえることを役立てます。また、適度な運動は交感神経を活性化させるので、前向きな思考をしやすい状態にすることができると言われています。
短い時間の運動でも、すっきりしたり、そのあと集中しやすくなったりした経験がある人は多いのではないかと思います。ネガティブな感情が強くなってきたと感じたら、ウォーキングや軽めのジョギング、ヨガなどを試してみるとよいかもしれません。
9. ポジティブな気持ちになった時を思い出してみる
楽しかったことや嬉しかったことなど、ポジティブな気持ちになったときのことを思い出すのも実は、ポジティブシンキングに繋がる行動です。良いことがあった時のことを思い出すことで、楽しい感情を認知する領域である左脳の前頭前野が活性化し、脳全体が健全に機能するからです。
ポジティブな感情を効果的に思い出すためには、ポジティブな気持ちになった時に、その感情を日記やメモに書いておくことをおすすめします。ポジティブダイアリーとも呼ばれ、楽しかったことや嬉しかったことなどの良い思い出を日記に綴ることで、ポジティブな思い出を強く記憶することができるため、結果的にポジティブなマインドセットを持つようになります。
10. 規則正しい生活を心掛ける
ポジティブシンキングが実践できるようになるには、心身が健康な状態であることはとても重要です。同じ時間に起きる、ご飯を食べる、ベッドに入るといった規則的な行動をすることで体や心が安定しやすくなり、ネガティブな感情が生まれにくくなります。規則的な生活を送るポイントは、しっかりと睡眠を確保すること、そしてバランスのいい食事を心がけることです。どちらかが不足し心身が不調になると、思考や発言がネガティブになり、ポジティブに考えづらい環境になってしまいます。
11. 自分を大切にする
ポジティブ・シンキングを定着させるには、自分を大切にしていることが重要です。ネガティブな思考が強いときは、自己批判したりと自分を大事にできていないことが多いです。自分を強く否定しているときに、ポジティブシンキングを実践するなど不可能に近いのではないでしょうか。自分を信頼していて、自信があるからこそポジティブに考えることができるはずです。
自分を大切にできている実感がない方は、まずは、自分への不安をとりのぞくことから始めましょう。しかし、どういったことをすれば良いのか迷われる方も多いでしょう。そんな方に、まず最初におすすめしたいのが、「1日10回自分にポジティブな声がけをする」という方法です。自分を否定したくなるときに、自己愛を高めるために自分に前向きな言葉をかけてあげましょう。
例)
「今日私はとても良く頑張った気がする」
「大丈夫。今は大変かもしれないけど私だったらなんとかできる」
というような言葉も効果的です。一日のどのタイミングでもかまわないので、自分に伝えてみましょう。
以上、ポジティブシンキングの実践方法をご紹介しました。次は、具体的なトレーニングを行いながら自分の感情と向き合ってみましょう。
【ポジティブ思考になるための6ヵ条】自分の感情を書き出してみよう
ポジティブシンキングについて一通り読んでみたけど、まだあまり良くわからないという方は実際に手を動かしてみることがおすすめです。ここでは、誰でもすぐに始めやすいワークをご紹介したいと思います。
ポジティブ思考になるための6ヵ条
- 自分のネガティブな感情を書き出す
- ポジティブワードに変換してみる(リフレーミング)
- 感謝できる部分を探してみる(視点を変える)
- もし誰かに相談したら、その人は何を言うかを考える(客観的に自分を見る)
- 自分がいつもネガティブになる時の思考のクセ、共通点を見つけ出す(思い込みを回避)
- ネガティブをプラスに変換する「ビリーフチェンジ」をする
1. 自分のネガティブな感情を書き出す
その日に感じたマイナスな感情を何も考えず、思いつく限り書き出す。
2. ポジティブワードに変換してみる(リフレーミング)
リフレーミングとは、ネガティブな感情をポジティブに変換することです。ポジティブな言葉に書きかえてみることで、自分の中で否定的に感じていたことが実際は受け入れられるかもしれないものだと気づくことができます。
(例)
ネガティブな感情:仕事が遅い自分にイライラしてしまう
→ポジティブ変換:仕事が遅いのは、いつも丁寧な仕事を心がけているから。ミスも少ないから、トータルで見ると作業時間は遅くないはず。
3. 感謝できる部分を探してみる(視点を変える)
書き出したネガティブな感情から、感謝できることはないか、視点変えて考ながら書き出してみましょう。
(例)
ネガティブな感情:最近とても忙しくて、朝からたくさんやるある。なんだか、疲れて一日嫌な気持ちになってしまう。
→視点を変える:今月から子供の保育園がスタートしたばかりで、お迎えだったり、朝から忙しいけど、旦那も積極的に手伝ってくれている。とてもありがたい。
4. もし誰かに相談したら、その人は何を言うかを考える(客観的に自分を見る)
自分のネガティブな感情に対して、身近な誰かに相談した時に、その人はどのようにアドバイスするかを考えてみましょう。客観的な視点に立つことで、自分の一方的な思い込みがあった場合はそのことに気づくことができ、解決策が見出しやすくなります。
(例)
ネガティブな感情:相手からの連絡が遅いと、自分が大切にされていない感じがする。
相談相手からのアドバイス→そう言えば、今月から新しいプロジェクトが始まるって言ってたよね。もしかすると、仕事で忙しいのかもね。私も忙しいときは、すぐに連絡を返せないことがあるから、心配しなくて大丈夫だよ。
5. 自分がいつもネガティブになる時の思考のクセ、共通点を見つけ出す(思い込みを回避)
ネガティブな感情を誘発する思い込みや思考のクセがある場合は、それらが何かを見つけ出し、「ビリーフチェンジ」するという方法があります。
書き出したネガティブな感情を見返してみると、そこには共通するネガティブなポイントが見つけられるかもしれません。そこには無意識の中で形成されている思い込み(=ビリーフ)が存在します。つまり、それらを変換(=チェンジ)するということです。
例)
“他人の前で話すとき、いつも緊張してしまい上手くいかない”という悩みがあった場合
共通するネガティブなポイント(思い込み)を書き出し、探す
- 自分はコミュニケーションが苦手なんだ (思い込み?)
- 声を大きく出せない (思い込み?)
- プレゼンが下手で、いつも人に聞いてもらえない(思い込み?)
書き出したことを見ながら、自分にかけている制限や、思い込み(ビリーフ)があることに、過去の経験を振り返ることで気づくことができるかもしれません。
共通するネガティブポイントから見つけ出せたこと
→そういえば、新入社員のときにたくさんの人の前でプレゼンをしたときに上手く話せず失敗した。もしかしたら、その経験があったからそのように考えているのかもしれない。
6. ネガティブをプラスに変換する「ビリーフチェンジ」をする
ネガティブなビリーフを書き出し、なぜそのように考えるのか書き出したら、ネガティブなビリーフを変換します。今度は、かわりに手にしたいポジティブなビリーフを紙に書き出すようにします。先ほどの例の場合だと、以下のようになります。
例:
ネガティブなビリーフをポジティブに変換する:
- 自分はコミュニケーションが苦手なんだ
→ポジティブ変換:仕事以外だと積極的に話すことができる
- 声を大きく出せない
→ポジティブ変換:学生時代からカラオケは得意だから、声は小さくないはず
- プレゼンが下手で、いつも人に聞いてもらえない
→ポジティブ変換:プレゼンが良かったと言ってもらえた時がいままで何回かあった
このように、マイナスのビリーフを紙に書き、それをプラスのビリーフに変換することで、自分の物事に対する見方や意識が変わり変化を生むことができるのです。
ポジティブシンキングのメリット・デメリット
ポジティブシンキングが、私たちの思考や行動に大きな意味を持つことは理解できたのではないでしょうか。ネガティブな思考がポジティブシンキングによって、プラスの方向に変わることで、さまざまなメリットを実感することができます。一方で、注意すべきデメリットも存在します。つぎは、ポジティブシンキングの具体的なメリット、デメリットをご紹介したいと思います。
ポジティブシンキングのメリット
- 成功しやすい
- 想像的に考え行動できるようになる
- 周囲と良好な人間関係を築くことができる
- 悩んだり落ち込んだりする時間が短く、気持ちのリセットが早い
- 忍耐力、粘り強さが身に付く
- 前向きで楽しい人生が送れる
- 健康が増進する
ポジティブシンキングのデメリット
- 失敗や困難から目を背けることで成長のチャンスを失う
- 慎重さに欠ける、準備不足に陥る
- 辛い時でも頑張りすぎてしまう
- ポジティブシンキングの「行き過ぎ」に注意
ポジティブシンキングのメリット
成功しやすい
ポジティブな感情は成功の起因になると考えられています。ノースカリフォルニア大学チャペルヒル校の心理学者、バーバラ・フレデリクソン教授の研究で、ポジティブな感情を持っていれば、思考や行動が積極的になって、より成功しやすくなり、成功すれば、当然ながら喜びや達成感といったポジティブな感情が増し、次の成功に向けた行動への意欲につながることを明らかにしています。
ポジティブシンキングに考える人が成功しやすいもう一つの理由は、自己効力感が高く、行動することに対してためらいが少ないという点です。自己効力感とは、目標を達成するための能力を自らが持っていると認識することで、スタンフォード大学教授で心理学者のアルバート・バンデューラ博士によって提唱されました。ポジティブな感情を持つ人はこの自己効力感によって、成功に向けて前へ突き進むことができるのです。
また失敗に対する解釈も肯定的で、失敗することで成功へ近づくという考えから、失敗を恐れずチャレンジすることができます。「失敗した時に誰かに何かを言われたらどうしよう」といった、人の目を気にするネガティブな感情をうまくポジテイブな感情に変換することができるので、周りの協力を上手く得ることができ物事を良い方向に進めやすくなるのもポジティブな人の特徴です。
想像的に考え行動できるようになる
ポジティブシンキングができると、物事を前向きに捉えて積極的になり、思考や行動の幅が広がります。そのため、悩みや困難があった場合に、それらを解決するためにより創造的に考え、行動ができるようになります。ノースカリフォルニア大学チャペルヒル校の心理学者、バーバラ・フレデリクソン教授によって提唱されたこの「拡張形成理論」と呼ばれる考えは、思考と行動の幅が広がることで、さまざまな有益な資源(行動力、経験、知識の習得、人間関係が拡がるなど)が得られることを明らかにしました。
例えば「職場の人間関係が上手くいかない」といった悩みを抱えたときに、ネガティブな感情のまま対処しようとすると、「どうせ頑張っても上手くいかないかもしれない」と解決策を考えること放棄してしまう可能性があります。それに対して、ポジティブな思考ができている場合は、物事を前向きに捉えることによって思考や行動の幅が広がるので、「もしかしたら自分のコミュニケーションの取り方に問題があるかもしれない」、「次からは思っていることをはっきり伝えるようにしよう」といった具合に、ポジティブな結果につながるようなアイディアを、実際に行動にうつすことができるようになるのです。
周囲と良好な人間関係を築くことができる
ポジティブシンキングができている人は、周りの人との関係性が良好であるという特徴もあります。なぜなら、ポジティブシンキングが身に付いている人は、劣等感が少なく、自尊心が高いという特徴があるからです。自尊心が高い人は、自分を大切にできているだけでなく、周りの人の能力や存在価値を感謝する傾向があると言われています。周囲の人は、自分が尊重されている感覚から、ポジティブに物事を考える人との時間に価値を感じ、良好な関係を築くことができます。
また、ポジティブな考え方は夫婦関係にも関係するようです。アメリカの夫婦関係研究の第一人者ジョン・M・ゴットマン博士の研究では、夫婦間の場合、通常の人間関係よりも、意識してポジティブな会話をすることで意識する必要があることが分かっています。例えば、夫婦の間で1つネガティブなことを言ってしまった場合、5つポジティブな言葉を使用しなければ夫婦関係が悪化するとのことです。
忍耐力、粘り強さが身に付く
楽観的な思考をもつと、いろいろな問題を跳ね返す強靱さを保つことができます。なので、困難に直面しても打たれ強く、ちょっとのことではへこたれません。粘り強く、成功するまでしぶとく向き合うことができる、この粘り強さのことを心理学で「レジリエンス」と呼びます。楽観的な思考を持つ人ほどレリジエンスが強い※と言われます。
レジリエンスは、ストレスの増加や、メンタルの問題が身近な職場環境で、従業員が困難や挫折、失敗などで心が折れるのをふせぎ、自信を持って挑戦できるビジネスパーソンとして成長するために重要な能力です。
ポジティブシンキングができる人はこの「レリジエンス」によって、目標や夢などを途中で投げ出したりすることがなくなるため、仕事だけでなく、人生においても好循環がつくられ成果をだしやすくなります。
前向きで楽しい人生が送れる
ポジティブシンキングができるようになると、つねに物事のポジティブな側面に焦点を当てることができるため、ポジティブで明るい人生を送ることができます。
今までやっていなかったことにチャレンジするなど前に進むための行動力が増えます。ネガティブに考えていたときは「自分になんてできるわけがない」と思っていたことでも、前向きに考えることができるようになると、「とりあえずやってみようかな」という気持ちになり、行動の選択肢が増え人生が豊かになります。
さらに、行動力が増えることによって、新しく人と出会う機会も増えます。新しいものに触れ、良い刺激を受ける回数が多くなるので、結果的に楽しい日々を送ることができるようになります。プライベートや仕事でも、自分が成長する機会や挑戦するためのモチベーションが湧いてきます。
悩んだり落ち込んだりする時間が短く、気持ちのリセットが早い
まだ起きてもいないことに不安になったり、心配したりと、そのような日々が続くと、どうしても毎日が憂鬱になりがちです。不安や心配は、考えれば考えるほど積み重なっていきがちです。ポジティブに考えられるようになると、そのような悩みに対して「今悩んでもどうしようもない」、「心配事は起こってから考えよう」と気持ちを切り替えることができるので、もやもやしていたネガティブな感情を上手くコントロールすることができるのです。
健康が増進する
強いネガティブ感情は、心拍数・血圧などを高めるリスクがある一方で、ポジティブ感情は免疫力を高める効果があると言われています。個々の健康状態に左右する
部分はあると思いますが、楽観的な考えや笑ったりする行為でポジティブ感情が高まり、これによってがん細胞を攻撃する「ナチュラルキラー細胞」が増加し、免疫力を高めると言われています(※)
またポジティブシンキングを習慣化することよって、「ウェルビーイング」な状態になりやすくなると言われています。ウェルビーイングとは、身体的・精神的・社会的に良好な状態を意味する言葉で、世界保健機関(WHO)によって以下のように定義されています。
“Health is a state of complete physical, mental and social well-being and not merely the absence of disease or infirmity.”
健康とは、病気ではないとか、弱っていないということではなく、肉体的にも、精神的にも、そして社会的にも、すべてが 満たされた状態にあることをいいます。(日本WHO協会仮訳)
ポジティブシンキングによって「ウェルビーイング」な状態になる理由として挙げられるのが、物事をプラスに考えることによって、人生をより良くする方向に行動範囲が広がり、結果としてポジティブな経験や感情を経験する頻度が多くなるということです。もしろん、その他たくさんの理由がありますが、ポジティブシンキングは健康に良いということがお分かりいただけたのではないでしょうか。
ポジティブシンキングのデメリット
ポジティブシンキングは、物事のプラス面に着目することで想像性や問題解決力を高めるだけでなく、健康にもよいといった素晴らしいメリットが存在しますが、同時に誤ったポジティブシンキングを実践することによるデメリットも存在します。以下のデメリットを理解し、正しいポジティブシンキングが実践できるようになりましょう。
失敗や困難から目を背けることで成長のチャンスを失う
ポジティブシンキングで注意しなければならないのが、「ポジティブすぎること」です。「ポジティブすぎる」人とは、ここでは、極端に物事のプラスの部分しか見ず、マイナスな出来事に対して目を向けず回避的になってしまう人のことを指します。
人は困難に対して、どのように乗り越えていくかを考えることによって、新しいことを学び、大きく成長します。もし、すべての困難やネガティブな出来事に対し、問題意識を持たず、つねに避けることばかり考えていると、そこから何も学ぶことができず、成長の機会を失ってしまいます。また、不運や失敗などのネガティブな経験を解決し乗り越えることによって得られる、問題解決スキルも身につけることができなくなります。
「失敗は成功のもと」、「七転び八起き」「弘法にも筆の誤り」、「怪我の功名」といった失敗から何かを学ぶ大切さをあらわすことわざが昔からありますが、人生には失敗や困難はつきもので、それらを回避するようなポジティブシンキングはむしろ自分の成長を阻むものになるので注意が必要です。
慎重さに欠ける、準備不足に陥る
間違ったポジティブシンキングによって、自分の能力を高く評価しすぎてしまい、慎重さや物事に入念に取り組むことを阻んでしまう可能性があります。
自分のことを過大評価してしまい、しっかり確認すべきことや準備が必要なことも「なんとかなるだろう」と根拠のない自信を持つことで怠ってしまうことも間違ったポジティブシンキングです。
物事が前に進まない時に、選択肢を増やすための創造的な考えや解決策、改善策を考えるという意味合いでのポジティブシンキングではなく、「成功するだろう」といった何の具体策もない軽率な発言や行動で周囲を巻き込んだ場合、適当や無責任だと思われ信頼を落とすことになりかねません。自分だけでなく、他人が関わる場合は特に、慎重さや事前の準備などを忘れないような心がけが重要です。
辛い時でも頑張りすぎてしまう
ポジティブシンキングのデメリットとして挙げられるのが、辛いときでも「ポジティブでいなければいけない」、「頑張らないといけない」と無理をすることです。
確かに、辛さや苦しみは乗り越えることで成長できるかもしれませんが、体や心がダメージを負っていてもう無理かもしれないという状況で、無理やりポジティブシンキングで乗り切ろうとしてしまうと心身に悪影響を及ぼしかねません。真面目な性格だったり人に相談できない人ほど、自己解決しようとし、このような考え方に陥ってしまう可能性があるので、もし限界かもしれないと思った時は、無理にポジティブになろうとすることはやめましょう。
まずは、体や思考を休めるようにして、友達や家族に相談するなど「無理にポジティブになろうとする」こと以外の解決策を考えましょう。友人や家族に相談できない人もいるかもしれません。そんなときは、迷わず専門家に相談したり、できるだけ自分を労わるようにしましょう。
ポジティブシンキングの「行き過ぎ」に注意
過剰なポジティブシンキングは“ポリアンナ症候群”とも呼ばれます。ポリアンナ症候群とは、“現実逃避癖”や“間違ったプラス思考”とも言われ、自分の都合の良い方向にばかり考え、問題解決に取り組まないといった行動が挙げられます。何か問題が起こっても、自分の能力を過信しつづけ、結局何の対策もせず生活が行き詰ってしまう、というのも誤ったポジティブシンキングです。楽観主義によって生活が行き詰まっているように感じた場合は、この「ポリアンナ症候群」かもしれません。具体的な特徴としては、以下が挙げられます。
- 問題を解決しようとせず、良いこと探しばかりしてしまう
- 「〜よりはマシ」とつねに比較し満足する
- 「なんとかなる」と具体的な対策を考えず、なにもしない
もし自分がこのような考え方をしていると感じたら以下の対策を試してみましょう。
自分を過信しない
自分を客観視してみることがおすすめです。自分は頑張ったという主観的な評価にとらわれず、結果を書き出してみるなど、“現実を直視”する習慣を身につけるようにしましょう。
「ポジティブ=絶対良いこと」という考えをやめる
ポリアンナ症候群の人は、ポジティブである姿が正しいものだと考えがちな傾向があります。実際、人は悩んだり苦しみを経験しながら成長するものです。 「何も悩みがない」、「すべてがポジティブな状態で上手くいっている」という考えをしていたら、“本当にそれで自分が成長できるのか”を一度自分に問いただしてみましょう。
行動ができているかを確認する
何らかの問題があった時に、自分がそれに対してアクションを起こしているかどうかを確認してみましょう。スケジュール帳に自分の行動を書き出してみるなど、視覚的に自分の行動を把握できるようにすることで、自分はどれほど“現実逃避“を行っているかをチェックすることができます。このような方法で、困難を回避せず、正面から問題に取り組む姿勢を持つようにしましょう。
ネガティブシンキングは必ずしも悪いことではない
ポジティブシンキングならメリットがたくさんあるとはいえ、ネガティブシンキングが悪いというわけではありません。ポジティブシンキングができないときは「ネガティブも悪くない」と考えられると気分が前向きになるかもしれません。ネガティブシンキングのメリットを見ていきましょう。
ネガティブシンキングは必ずしも悪いことではない理由
- ネガティブも人間の自然な感情
- 危機管理能力が高い
- ネガティブな自分を受け入れてみる
ネガティブも人間の自然な感情
ネガティブに考えてしまうのは人間の自然な感情です。当然、人生は良いことばかりではないので、誰だって「今日は嫌な日だった」とか、「自分は全然ダメだったな」といったネガティブな気持ちになってしまうことはあるのです。
なので、ネガティブな気持ちを無理に「ポジティブにならないと」と考えたり、「ネガティブなことを考えないようにしよう」と感情を抑える必要はないと理解しましょう。無理に自分の気持ちを変えようとすると、本来の気持ちとの葛藤が生まれ、より苦しむことになりかねません。
有名な心理学の実験に、アメリカの心理学者であるダニエル・ウェグナーによって行われた「シロクマ実験」※と呼ばれるものがあります。ここでは詳しい実験内容には触れませんが、内容としては“人は何かを考えないように意識すればするほど、その何かが頭から離れなくなってしまう”人間の心理を明らかにしました。
この研究結果からも分かるように、ネガティブな感情を無理やり考えないようにすると、ネガティブ感情が強化されてしまう可能性があるということも頭の隅に入れておくと良いかもしれません。
危機管理能力が高い
ネガティブシンキングをする人は、物事の良い部分ばかりでなく、マイナスの部分や最悪の事態も想定しているので、パニックになりにくく、冷静に解決手段考えることができます。まだ見えない未来に対して不安を感じやすいため、「もしかしたら何か起こるかもしれない」といつも考えながら過ごしているので、危機管理能力が高いのです。
ですので、そのような素早いアクションを起こすことができることから、「周囲から何かあった時に頼れる人」と信頼を得られやすくなるといった良い部分があります。
また、ネガティブな人はリスクを避ける傾向にあるため、「ローリスク・ローリターン」を重要視します。大きな賭けをすることで利益を一気に手にするよりも、手元から出ていくものをできる限り少なく抑えたいと考え、ギャンブルに手を出す確率も低くなります。このことから、トラブルによって大きな危険を背負う可能性が低く、リスクに恐れず立ち向かうタイプのポジティブシンキングと比較するとより安定した傾向があると言えます。
ネガティブな自分を受け入れてみる
ポジティブシンキングになるためには、あるがままを受け入れること。つまり、ネガティブな自分を一度受け入れることも大切です。例えば、「ネガティブな自分が嫌い」と自己否定するのではなく、「まあそういうこともあるよね」と今の状態を否定せず、そのまま受け入れることで気持ちがすっと落ち着くかもしれません。ポジティブシンキングはたくさんの良い効果がありますが、毎日つねにポジティブでいる必要はありません。ネガティブな自分を肯定することで、前向きな気持ちになるための心の準備をすることばできるはずです。
まとめ
今回はポジティブシンキングについてご紹介しました。ポジティブシンキング、つまり“物事を前向きに考える習慣”を実践することで、プライベートや仕事など人生におけるさまざまな場面で良い影響を実感できるだけでなく、幸福感を感じることができるはずです。気持ちが落ちこんだり、ネガティブな感情からどうしても抜けられなくなってしまったときはぜひ、ポジティブシンキングを試してみましょう。